pickup!

アルディは滝壺の中にある、大きな水溜りの中に、乾きの石をぼとんと投げ入れた。栓を抜かれた風呂の湯が無くなっていくように、みるみるうちに水を吸う乾きの石の様子に、ライアンは「不思議なものも、あるものなんだな」と呟いた。

「ね? とっても不思議」

しゃがみ込んで、その様子を眺めるアリーナに、危ないですよと声をかけるクリフト。

「仕組みは……よくわからん。生き字引みたいなクリフトの義父ちゃんや、クリフトですらわからんらしいから、本当に不思議なオーパーツなのかも知れない。言えることは、水を吸いまくる石があるってことと、水が邪魔して入れない洞窟があるってことで、上手いこと繋がってるってことくらいかな」

「ここにあるものはなんなんだ?」
「さあ、昔の海賊が残したもの、だっけ。クリフト?」
「正直、あまり興味ないですね。物欲自体あまり湧かないもので」
「レア本があるかもしれんぞ」
「……こんなところにあるレア本は、状態が悪そうだ」
「お前の剣を手に入れるんだろう? 本腰入れろよ」
「情報が定かじゃないんだよな……」

スクリと立ち上がったアリーナは、腰に手を当てて、ダメよクリフト。と一喝した。

「定かな情報の方が怪しいとは思わない? そんなんじゃダメよ、クリフト。ここに眠るのは、自分を待っている剣だって思わなきゃ!」

「剣か。それはいいな」と、ライアン。

「軽くて硬い、誰も見たことないような珍しい金属なんだって」
「なんだ軽いのか。俺は少しでも重量があった方がいいな。突き斬るにはいいが、叩き斬るには腕力がより必要になるだろう?」
「あーあ、私も剣が使えたらな」
「姫騎士というやつか。そう上手くはいかないな。……ん? クリフト、剣が使えたのか?」

きょとんと不思議そうなライアンに、アルディが応えた。

「コイツ、槍や棒より剣の方が得意だぜ」
「不思議なこともあったものだ、一国の神官が槍や棒より剣の方が得意だなんて。落ち着いたら、稽古代わりの一戦を願いたい」
「はい、それは喜んで。鈍っているでしょうし、稽古を付けていただくのは大歓迎です」
「しかし、またどうして剣が使えるんだ?」
「私の家は少々特殊でして……」

クリフトが話を続けようとしたとき、アリーナが、ぴょこんと跳ねるように言った。

「あっ、人が通れるくらい水が引いてるよ! なんだか通路も見えるし……。行ってみよ?」

「すごぉい……」

鍵で扉を開け、4人で通路を進んでいくと、アリーナが感嘆の声を漏らした。

「滝の中に滝があるみたい。お日さまの光があちこち反射して本当に綺麗……。ねえ、海賊が隠した財宝って、本当はこの景色なんじゃないかなあ」

クリフトは、周りを見渡した。
目を閉じれば、あちこちから大小の滝の水音が聞こえ、さらさらと身を包んでは、儚く弾けていく水と光の粒子。

目を開ければ、アリーナの美しい亜麻色の髪の毛に、細かい水の粒子が付着し、アリーナが感嘆の声を上げるたびに、それは小さく揺れ、光を伴いながら弾けていく。

「んなわけねー。海賊ってのはもっとこー……シビアだと思うぞぅ?」

このような空気を、ぶち壊すのはいつだってアルディだ。見れば、アルディのピアスにも細かい水の粒子が付着し、髪の毛からは薄く、小さな水滴がぽたり、ぽたりと落ちていく。

「ええー、こんなに綺麗なのに」
「綺麗だけじゃメシは食えないの」
「しかし、アリーナ姫の言うことももっともだな、世界にこんな美しい景色があるとは。光の反射で虹があちこちにかかって、ある意味桃源郷のようだ」
「ライアンもそう思うでしょ?」

そう。
美しいのだ、たしかに。

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